ヘリテージ(heritage)という単語がある。
:受け継いだもの。また、代々継承していくべきもの。遺産。(*大辞林Ver.3.0)
オーセンティック(authentic)という単語もある。
:本物であるさま。正真正銘。信頼できるさま。ファッションでは正統派をいう。(*大辞林Ver.3.0)
先日、神奈川県のヘリテージマネージャー養成講座で、鎌倉市材木座地内を散策した。
その散策の趣旨として、残されている古い建物を見学して、自分なりにその建物を注文した人の思いや、
それに応える職人の創意、技量に思いを巡らし、今後残していくであろう建物を
どのように観て、測って記録し、その建物の重要性、
正当性を示すことの訓練を兼ねた散策だと思う。
しかし、散策しながらも、
自分の悪い癖がにょきにょき頭をもたげてきてしまった。
子供の頃から教師などからあらかじめ答えが設定されている課題に、
あまり寄せることも無く、頭の中で自己中的な思考をして、
自分の中で勝手な考えを導く傾向にあった。
そんな自分に劣等感があり、かつ、
自分の考えをまとめる力もなかったから、
人に自分の考えている事を伝える事ができなかった。
私が住む戸塚から鎌倉は近い。
生活圏といってもいい近さ故、
いつも通り過ぎるだけで、興味の対象でなかった。
今回改めて散策してみると、
古い建物が残っていることや、
古木、大木が多いことに驚いたと同時に、
「プレハブ」の住宅が多いことも感じた。
一昨年、日本で最初期につくられた住宅としての機能を備えた、
プレハブ住宅が「文化財」の指定を受けていると聞いたので、
興味があり訪れたみた。
そのプレハブ住宅の文化財があるのは、
軽井沢の地で、
名称を「山崎家及び臼井家別荘(セキスイハウスA型)」という。
この建物は、
登録有形文化財(建造物)に指定されている。
登録有形文化財(建造物)とは:
近年の国土開発や都市計画の進展,生活様式の変化等により,
社会的評価を受けるまもなく消滅の危機に晒されている多種多様かつ大量の近代等の文化財建造物を後世に幅広く継承していくために作られたものです。
届出制と指導・助言等を基本とする緩やかな保護措置を講じるもので,
従来の指定制度(重要なものを厳選し,許可制等の強い規制と手厚い保護を行うもの)を補完するものです。
以上が、文化庁の登録有形文化財(建造物)の解説。
登録有形文化財(建造物)の説明によれば、
「社会的評価を受けるまもなく消滅の危機に晒されている多種多様かつ大量の近代等の文化財建造物を後世に幅広く継承していくために作られたもの」だという。
最近、若者たちのあいだで、レトロブームが起きているそうだ。
材木座周辺はインバウンドの旅行者や国内の観光客は少ないものの、
鎌倉市内、どこに行っても多くの旅行者を見かける。
そのような旅行者にとって、古き日本の建物を魅力的に感じて、
鎌倉を訪れている人たちは多いだろう。
プレハブ住宅という商品は、戦後、持ち家政策を進めてきた日本の高度成長期に、
不足している住宅を工場生産を通じて、品質が安定した住宅を多量に効率よく生産するシステムである。
それは、経済的優位性とコマーシャルによる中間層への周知で、
日本全国津々浦々に広まった。
このプレハブ住宅は、戦後今に至る経済至上主義の企業活動で生産され、
普及してきたことは疑いのないことだ。
仮に、プレハブやその他の住宅を商品として供給する企業の
限りない経済的成長(SDGs(持続可能な開発目標)を含む)がその会社の存在意義で、
古きよき日本的なるものがカネになると思えば、
一見、レトロ的に見える商品をつくり、広く宣伝して、
我が企業こそ正統的日本建築の継承者であると
主張するとも限らない。
一見、伝統的日本建築に見えたとしても、
正真正銘の伝統的日本建築は効率重視の社会とは違う価値観でつくられているもので、
造り手の受け継がれてきた技術、創意工夫、矜持からできあがった建築とは、
似て非なるものだろう。
私としては、
SDGs(持続可能な開発目標)を含む限りない経済的成長の時代は去り、
造り手の創意工夫が建築に投影される日が来てほしいと願っている。
プレハブ住宅の先駆けとなった登録有形文化財(建造物)とは、
高度成長期やその残滓の時期を切り取った
時代を代表するもので、
正統的(オーセンティック)であり、
遺産として受け継がれていくもの(ヘリテージ)。として、
あたりまえになっていく事はないであろうと思っている。
そして、プレハブ住宅の黎明期と重なる時期から現在まで、
効率重視だけでない価値観によって造られた住宅も、
正統的で受け継がれる住宅でもあると思っている。
私は、
そのような正統であり、受け継ぐべき建物をしっかり普及させる
ヘリテージマネージャーの必要性も感じている。