長く住みたくなる家

今は過去に造り続けてきた家が

世の中に余っている時代。

これから私が新たに造る家は、

長く使われ続けるという視点から考つもりでいる。

長く使われ続ける家は長く住みたくなる家にしていかなければいけない。

技術的・意匠的にはできるところから始めていこうと思う。

しかし、長く住みたくなる家には技術的・意匠的とは別の
ハードルもあると思う。

その一つは、

世の中に浸透している経済活動がある。

 

以前読んだ心理学の本。

ディヴィッド・マクレイニー著、安原和見訳
「思考のトラップ」
冒頭の一文をみてこの心理学の本を購入した。

はじめに--人の性

ウソ× :人は合理的・論理的にものごとを考えており、
世界をあるがままに見ている。

ホント○:人はみんなだまされている。
しかしそれでいいのだ。
正気でいられるのはそのおかげだから。

いまあなたが手にとっているのは、自己欺瞞について、
そしてなぜ人がそれにあっさりおちいってしまうのかを簡単に説明した本だ。
人はこの世界がどう動くのか知っていると思っているが、
本当は知らない。・・・・・

この本には、
人は無意識の判断に縛れているということが
最近の心理学の実際の実験の積み重ねでわかってきた、
というようなことを様々な事例を示して説明している。

感情ヒューリスティクスというものも説明されている。

ウソ× :どんな危険があり、どんな得があるのか人は計算し、
つねに利益が最大になり損失が最小に
なるように選択する。

ホント○:人は善し悪しを感情に頼って決め、
得になることは過大に評価するし、
第一印象に固執しやすい。

感情ヒューリスティクスという人の行為について。
「実際の確率(ここでは得する確率の意味)
を無視し、カンを信じて誤った選択をしてしまう
傾向のこと」としている。

人間の本能として何かを判断する場合、
合理的な判断(得する判断)をしないことがある
ということが説明されている。

買い物やギャンブル、投資といった日常生活の営みを心理学を
取り入れて説明するという、ここ数年で急速に発達した
「行動経済学」という経済学の分野があるようだ。
去年ノーベル経済学を受賞したリチャード・セイラーも
この「行動経済学」の研究者だそうだ。

代表的な著書の一つに、「実践行動経済学」という本があるそうだが、
「人間というのは放っておくと不合理な意思決定をし、
必ずしも満足が最大にならないから、・・・・」
という一文が書かれているそうだ。
(週刊ダイヤモンドのWebページより)

少し前に話題になった
「米iPhoneの計画的陳腐化問題」
*計画的陳腐化を行っているアップル社が批判を受けた。
とはいえ、計画的陳腐化を行っているのは
アップル社に限ったことではないだろう。

計画的陳腐化は人の心理を利用した
一つの経済的作戦ではないかと思う。

住宅業界も例外ではない、
商品(住宅)を売り続けるために
当然、計画的陳腐化を行っている。

*計画的陳腐化:新製品を投入し、既存の製品を
時代後れにすることで市場の拡大を図る製品戦略。
(スーパー大辞林3.0より)

以前、昭和40年代に分譲された土地に
住宅を建てて住まわれていた70代の方から
建て替え相談をうけた、
いろいろな理由が有り建て替える決意をされたことは
わかったが、結局は周りがどんどん
古くなった住宅を建て替えて、
自分のところだけが取り残されて、
みすぼらしく思えてきた。
という理由が自宅を建て替える一番の
理由だったのではないかと思う。

打ち合わせが終わり、外に出てきてまじまじと
周囲のお宅を見回すと、様々なハウスメーカーの
真新しい家が建っていた。

住宅の計画的陳腐化は例えば
「工業製品を多用する」なんていうことも
そうなのかもしれない、造ったときが一番美しい。
時が経つことにより趣が出たりすることはない。
また時が経てばより性能のよいものが登場して
変えたくなる。(例えばキッチンや便器
浴室などの住設)

今は
振り込め詐欺までも
人の心理を利用して詐欺を働いている時代。
グーグルやアマゾンのような巨大企業に
消費者(個人)データが集まりそれを元に
AIに学習させて将来的には消費者が
コントロールされるのか?

家を建て替えたいという気持ちは、
自分で決めているようで、実は世間(世の中の流れ)によって
決めさせられているのかもしれない。

「長く住みたくなる家」を普及させるには、
技術的な面、中古住宅の流通、融資の面以外に
建て替えたい気持ちにさせる「世間」の常識化した
経済的理由というハードルもあるのではないかとも思う。